エリーとエバとライアンとシルディ
ある日の午後。
エリスティンが銀の宮殿へ戻ってくると、ホールにエバとライアンがいた。
エリスティンは三人に駆け寄ると、コツコツと蹄を鳴らしながら訴える。
「ヴェー! ヴェー!」
大変です! ぎっくり腰で動けなくなっている方がいました! 助けてあげてください!
そう告げたのだが、エバは首を傾げて不思議そうにする。
「なに? お腹空いたの? それとも水?」
「ヴェーヴェー!」
「違うの? ヤギ語なんてわからないわよ」
ライアンも両腕を抱えて、エリスティンがなにを伝えようとしているのか、考えた。
「背中が痒いんじゃないか? ほら、バタバタして、せーなーかーが、かーゆーいー、って言ってる」
エリスティンは首を振った。エバは肘でライアンを小突く。
「違うって言ってるじゃない」
「じゃあ、頭か? あーたーまーが、かーゆーいー」
「首を振ってるから、それも違うみたいよ」
そこへ、シルディが訪れた。シルディはエリスティンの姿を見るなり、真っすぐに駆け寄って抱きつく。エバは助かった、とばかりにほっとする。
「シルディ様。エリスティンがなにか伝えようとしているのですが、通訳をしていただけませんか?」
シルディはエリスティンへ頬ずりをしていたのだが、顔を上げた。
「エリスティンお姉様が?」
エリスティンは頷いた。
「ヴェー! ヴェー!」
シルディはうんうんと話を聞いた。エバはシルディへ注目する。
「シルディ様、エリスティンはなんと言っているのですか?」
「まぁ、大変! お姉様は、ぎっくり腰になってしまったそうよ! すぐに医者を手配したほうがいいわ!」
ライアンがエバを見ると、にやりとした。
「ほらー、背中だろ? 合ってるじゃん、俺」
エバはその発言を無視した。
「医者の手配をすぐにしないと。……あぁ、でもこの場合、人間の医者でいいのかしら? 獣医? どっちかしら……」
悩みながら、エバは銀の宮殿を出て行った。その後を追って、ライアンも出て行く。
「ヴェー! ヴェー!」
違うんです、と言ったが、エリスティンの声が二人に届くことはなかった。