これからは私が
エルーテがメルフィノン城へ訪れて、もうじき一ヶ月が経とうとしていた。
(ラルケス様に、無視はされなくなったけど……)
食事の際、彼はエルーテの話に相槌を打ったり、返事をしてくれるようになった。親交を深めるためにどこかへ出かけようという提案をしてみたが、それについては断られたのだ。しかも彼は自分のことを一切話さないので、エルーテはどうにか仲良くなるいい方法はないかと悩んでいた。
「相変わらず、忙しないな」
そう言ったのは、監視役のアルディだ。
「え?」
「朝から菜園の水遣りや洗濯を手伝って、怪我をした小姓の手当てをしたり、買い出しへ行ったり……。今は厨房で野菜の皮むきをやってる……」
使用人の女性たちに交じって、エルーテは芋の皮むきをしていた。恰幅のいい使用人の女性は、エルーテへ微笑む。
「毎日手伝ってくれて、ありがとうね。ラルケス様のお客様って聞いているけど、いいのかい?」
エルーテはにこにこした。
「大丈夫です。客というより、ただの居候の身ですから」
そこで、厨房へと騎士たちが四人、訪れた。まだ年若い、青年たちだ。
「エルーテ、ここにいたのか。いいものをやるよ」
なんだろう、と首を傾げた。
「いいもの?」
「あぁ。匂い袋だ」
エルーテは匂い袋を受け取った。コストマリーやミントなどの香りがし、思わず笑みをこぼす。
「ありがとう。本当にもらってもいいの?」
「それを身に着けて、ちょっとは女の子らしい恰好をしたほうがいいぞ。鍛冶場のおやっさんが、お前のことを男の子って言ってたからな」
「女の子らしい姿かぁ……。そういえば、もう随分と長い間、女の子の服装はしていないなぁ……」
「え! すればいいだろ!」
「うーん……、いいや。私には似合わないし」
ここで、使用人の男性が駆け込んできた。かなり慌てている様子だ。
「ラルケス様かシャル様を見なかったか?」
問いに答えたのは、騎士だった。
「シャル様なら、今日はラルケス様と王都へ出かけておられる。どうかしたのか?」
「じ、実は、隣国のラインハルデからの商人が来ている。だが、ラインハルデ語が話せる者がいないから、困ってるんだ」
「ラインハルデ語を話せる者など、この城ではラルケス様かシャル様だけだぞ」
「あぁ、困ったな……。もしも取り引き相手の商人に失礼な真似をしたら、ラルケス様に殺される。今は家令が相手をされているけれど……」
エルーテは芋の皮むきをストップすると、手を水桶で洗った。
「案内して。私がその商人と話をするから」
その場にいた全員が、エルーテを凝視した。
商人がいる客室へ通されたエルーテは、彼らにラインハルデ語で話をした。どうやらたまたまこちらへ来る用事があったので、ラルケスへ挨拶をしようと立ち寄ったらしい。客室には商人二人と、彼らに仕えている使用人の男性が二人いた。エルーテの傍にはラルケスに仕えている家令がおり、扉の近くで控えている。
『驚きました。ラインハルデ語がとてもお上手なのですね』
商人たちはどちらも男性であり、硝子で作られたビーズやレースを縫いつけた、綺麗な装いだった。胸元についているブローチや腕輪の宝石は大きく、かなり裕福なことがわかる。
『ありがとうございます。ラインハルデ国に兄の友人がいるのですが、その方が紹介してくれた教師に言葉を習ったんです。もしも何か困ったことなどがあれば、遠慮なくご相談ください』
商人たちはほっとした表情を見せた。どうやら船倉へ積む荷物が手配と違っていたらしいのだが、言葉が通じないせいで困っていたそうだ。通常商人は通訳を連れているものだが、その通訳は風邪で体調を崩し、現在宿で寝ているらしい。エルーテはただちに、家令へ伝えた。ラルケスたちが留守にしている今、城の責任を負っているのは家令だからだ。彼はラルケスからある程度の権限を与えられているので、すぐに対処するだろう。
『そういえば、あなたはラルケス様とどういったご関係なのですか?』
『え?』
『これでも私どもは商人です。商売柄色々な人種と接するので、あなたがただの庶民でないことはわかります。私どもが扱う交易品について詳しいですし、普段からこういう話し合いに慣れているのがわかります』
かまをかけている、というわけではなさそうだった。
『私はフィルラング領を治める、領主の娘です。今は諸事情で、この城に身を寄せています』
そう答えれば、商人たちは大きく目を見開いて、驚いた。
『フィルラングの? 失礼ですが、もしやあなたのお名前は、エルーテ様ですか?』
なぜ名前を知っているのだろう、とエルーテはきょとん、とした。
『はい、そうですが……』
『まさか、こんなところで同朋の大恩人に出会えるとは……。四年前、北の大国がこのフレリンド王国へ攻め込んできたとき、我らの国の者が逃げそびれ、フィルラング領に取り残されたと聞きました。そのときに助けてくださったのが、エルーテ様だと聞いています』
エルーテはどう答えていいものか、返答に困った。その話は事実なのだが、表向きには伏せられていることだからだ。
『えっと、その件は私ではなく、姉が……』
『我らの情報網を甘く見ないでください。フィルラングの領主の血族で、ラインハルデ国の言葉がわかるのは二人だけだと聞いています。一人はあなたのお兄様。もう一人はエルーテ様。当時仲間からの話では、流暢なラインハルデ語を話す小さな少女に助けられた、と聞きました。港では出航の制限がかかる直前で、どうにか間に合うように、あなたが最短距離の陸路を手配してくれた、と。同胞たちは船に間に合い、家族がいる祖国へ戻ることができました』
商人たちは頭を下げた。エルーテは恐縮する。だが、すぐに微笑んだ。
『困っているときに助け合うのは、当然のことです。私は、正しい選択をしただけです。ラインハルデ国の皆さんが国へ戻ることができて、本当に良かった』
商人二人は、顔を見合わせた。そして同時に頷き合う。
『実は、ラルケス様との取り引きは、少々迷っておりました。こう言ってはなんですが、ラルケス様は容赦のない、悪魔のような性格をしているので』
彼ら商人は、相手のことを知らないまま取り引きはしない。おそらく、ラルケスがどういう人物なのかは、調査済みなのだろう。
『……えぇ、そのようですね。仕事の面では大変厳しい方だと、聞いています』
『でも、フィルラング領のエルーテ様がこの城へ滞在されているということは、信用のおける方なのでしょう。どうか、ラルケス様にお伝えください。取り引きをさせていただきます、と』
『取り引き、ですか……』
『えぇ。ラルケス様が所有している砂糖を、我々が買い取らせていただきます。金額はこちらでいいか、ラルケス様にお渡しください』
砂糖自体は珍しくはないものの、流通の少ない奢侈品だ。滋養にいいとして薬に分類されており、薬局で購入することができる。戦争の際は栄養不足に陥った者が多かったらしく、砂糖を用いて治療していたそうだ。
(ラルケス様が、砂糖を持っている……?)
エルーテは商人から、羊皮紙を受け取った。そこに書かれていた金額を見て、驚愕する。どこの国も砂糖を欲しているので、入手するのは難しいときく。だがラルケスは相当な数の砂糖を持っており、それら全てを売れば、小さな城が二つは建てられるからだ。
『ラルケス様に、お渡しします』
『よろしくお願いします』
その後商人たちはエルーテと楽しく会話をし、帰って行った。
――その夜。ラルケスは、自室で配下から報告を受けていた。
「周辺に関しては、特に変わりはなし、と。……それはそうと、ラインハルデ国の商人の話は、大変興味深いですね」
今日の出来事について、接客を担当した家令からあらかた聞いていた。家令はラインハルデ国の言葉を話すのは苦手だが、どのような内容かは大体理解ができている。そのため、エルーテがラインハルデ語を話せ、しかも恩人となっている話に驚いていた。
「もう下がってもいいですよ」
配下は影のように、姿を消した。彼らはラルケスの目や耳、そして手足だ。各地に情報収集をするために放っているだけではなく、表立って解決できない仕事を任せることもある。今はエルーテへ護衛を兼ねて、監視をさせていた。つまり、普段エルーテを見張っているアルディは、お飾りにすぎないということ。
ラルケスは台座つきの美しい銀杯で、葡萄酒を飲んだ。ソファーへ座った状態で、シャルを見る。
「あなたも、エルーテについて、何か話をしたそうですね」
「……さすがは、ラルケス様。お見通しでしたか……。実は、とても不思議な方だと思っていました。先日聞いた話では、仲が悪かった鍛冶場のダルと食糧貯蔵室のギールを、和解させたそうです。今では十年間不仲だったのが嘘のように、二人は毎晩一緒にお酒を飲んでいるんだとか……」
「へぇ……。あの二人が和解とは、鉄を金にするより難しいと思っていましたが……」
「今日は、木登りをしていて下りられなくなった子供を、エルーテ様が助けていました」
「梯子を使用して?」
「いえ、エルーテ様自らが、木に登って。一応、危ないと注意をしておきましたが……」
ラルケスは想像して、おかしそうにした。
「貴族の令嬢が、木登りですか……。イノシシかと思っていましたが、リスだと認識を改めなければならないようですね」
つくづく面白い娘だと、ラルケスは考える。
「当初調査をした内容と、随分と違いますね」
前回調査をしたとき、エルーテの評価はお世辞にもいいとは言えないものだった。怠惰でいつも遊び歩き、変わり者で領主の子供の中では一番の無能。四年前の戦争時に領主が不在だったときも、活躍をしたのは四女のニーナであり、エルーテは何もしなかった。しかしながら、今回の商人の話やラルケス自身が観察をしていたところ、エルーテは無能どころか、かなり優秀だ。よく動き、誰かの助けができる知識と器用さがある。多少鈍くて貴族らしからぬところはあるが、それを差し引いても、彼女には自然と人を惹きつける天賦の才がある。それは生まれ持った資質であり、なかなか得られないものだ。おまけに性格も良く、自らを犠牲にすることも厭わない、博愛精神の持ち主。
「……調査の方法を変えましょう。なぜエルーテの評判が悪いのか、原因を調べさせてください。彼女がそれを否定しない理由も、気になります」
シャルは頷いた。
「そういえば、もう一つ気になることが」
「なんです?」
「最近、一部の騎士や使用人の男性が、エルーテ様の元へ足繁く通われているようです。アルディが健気に邪魔をしているようですが、あまり効果がないようで」
ラルケスは溜息をついた。
「そういう面倒事が起きないように、わざわざ男装させているというのに」
エルーテが滞在するにあたって、服は全て男性のものを用意させていた。本人も動きやすいほうがいいという理由で、好んで着用している。
「エルーテ様はご自身が貴族であることを、決してひけらかしたりしませんからね。しかも愛嬌があって、親しみやすい性格をされています。男性たちが群がるのも、無理はないでしょう」
遊び目的でちょっかいを出す程度ならば、黙認できる。問題なのは、エルーテへ群がっている者たちが、全員本気で口説きに行っている点だ。エルーテは鈍いので、全く気づいていないが。
「問題を起こしそうな男性は全員、エルーテから遠い場所での仕事を命じてください」
「承知いたしました。では、彼らに南方の別荘の掃除と、港の警備を任せます」
シャルにも下がっていいと告げると、ラルケスは深い溜息をついた。
朝。エルーテは、朝食の席にラルケスがいないことを不思議に思った。
「ラルケス様は? どこかにお出かけですか?」
答えたのは、家令だった。ラルケスはいつも食事の給仕を、家令とシャルに任せている。だが今日は、ラルケスもシャルの姿も見えない。
「本日は、朝食は必要ないとのことです」
「外出ですか?」
「いえ、執務室で仕事をされています」
仕事が忙しいのだろうか。エルーテは気になったが、食事を続けた。
だが更に翌日の朝。
ラルケスは食事へ訪れなかった。昼食と夕食のときもだ。昼食は一緒にとらないことのほうが多いので、気にはならなかった。だが、昨夜と今朝まで食事に来なかったのは、異常だ。エルーテは自らが何か不敬をしたかと、ラルケスがいる部屋まで来た。執務室にはいなかったので、まだ彼は自室にいるのではと思ったからだ。部屋の前にはシャルがおり、すぐにエルーテへ礼をする。
「おはようございます、エルーテ様。ラルケス様にご用でしょうか」
「はい」
「……、本日は誰ともお会いしないと、仰っております。申し訳ありませんが……」
彼の態度と口調から、エルーテは察した。姉のニーナが具合を悪くしていたとき、ニーナに頼まれて使用人が隠していたことがあったのだ。今はそのときの状況と、似ている。
「なんともないなら帰ろうと思いましたが、ラルケス様にお会いします。そこを通してください」
シャルは護衛役を兼ねており、かなり強い。その彼を相手に、強引に押し通ることはできないだろう。
「わかりました。どうぞ」
彼はあっさり身を引いてくれた。
「ありがとう、シャル」
エルーテは扉をノックした。
「エルーテです。ラルケス様、入りますね」
返事を待たずして、部屋の扉を開けた。許可を求めれば、彼に断られる予感がしたからだ。室内へ入ると、彼はソファーに座っていた。ソファーの前にあるテーブルの上には、仕事関係の書類らしきものがたくさん並べられている。その時点で、エルーテは察してしまった。
(普段きちんと椅子に座って仕事をする人が、ソファーで仕事をするなんて、具合が悪いんだ……)
ラルケスはエルーテへ振り返った。
「なんです、勝手に部屋に入ってきて。許可を出した覚えはありませんが」
エルーテはラルケスの隣へ移動すると、顔色を確認した。赤褐色の肌なので分かりにくいが、いつもより血色が悪い気がする。額へ手を当てると、予想通り熱かった。
「熱があります」
「なかったら死んでいます」
「今は、そういう冗談を言っているわけではありません。今日は仕事を休んで、寝台で寝てください」
「お断りします」
頑固な性格をしていそうだとは思っていたが、やはり簡単にはいきそうになかった。
「どうしても仕事をするというのなら、無理やり寝台へ連れて行くしかないですね」
怒鳴られようと、寝台まで運ぶことにした。彼の両脇へ手を差し込み、立たせようとする。ところが、ラルケスはエルーテの体を引き寄せ、匂いを嗅ぐ。
「……このニオイは、なんです?」
「え? ニオイ……、ですか? あぁ、そういえば……」
服の腰側につけておいた、匂い袋を見せた。
「これは?」
「いつも親切にしてくれる騎士の方から、いただいたんです。すごくいい匂いがするんですよ」
ラルケスは、エルーテの手から匂い袋を没収した。
「あなたは、私の妻になりたいと言いながら、下心がある男からのプレゼントを受け取るんですか」
「下心って、まさか。ラルケス様も、面白いことを言うんですね」
ラルケスは立ち上がると、ショーケースから硝子の容器に入った小瓶を手にした。中から液体を掌にたらすと、エルーテの首へ塗る。
(これ、普段ラルケス様が使っている香油? 同じ匂いがする……)
なぜ塗られているのか、わからなかった。
「ラルケス様?」
「これは仮定の話ですが……」
「……? はい」
「私が、宝石やドレスを好きなだけ買い与え、生活に困らない暮らしを約束したとしましょう。でも人前以外で、私があなたを妻として扱うことはない、と言ったらどうしますか?」
「それは、どういう……」
ラルケスはエルーテの顎を、指で持ち上げた。その瞳は空虚だ。
「あなたを愛することはない、という意味です」
なるほど、と頷いた後、エルーテは微笑んだ。
「わかりました」
彼は怪訝そうにした。
「本当に理解していますか?」
「はい」
「私はあなたを、愛さないと言ったのですよ」
「ラルケス様が愛さなくとも、構いません。ですが、私がラルケス様を愛することは、お許しください。ラルケス様が私を愛せないというのなら、ラルケス様の分まで私が愛します」
「正気……、のようですね」
「はい。だから、先ほどラルケス様が仰ったその心配は、無用です。私は自身が愛されないからといって、相手を嫌いになることは決してありませんから。それと、もしも何かあって貧困に陥るようなことがあっても、私は決してラルケス様のお傍を離れません。私が必ず支えます」
ラルケスは思案するかのように前髪を掻き上げると、顔を横に向けた。
「……他の者が言えば疑うところですが、あなたがそう言うのなら、事実なんでしょうね」
エルーテは期待に満ちた目を、彼に向けた。
「私と結婚をしてくれる気になりましたか?」
「まさか。私は従順で美人でおしとやかで、教養があり、控え目な女性が好きなんです。あなたと真逆の女性が」
エルーテはしょんぼりした。
(従順で美人でおしとやかで……って、ニーナ姉様にぴったり当てはまる……。なるほど。だからラルケス様は――)
胸がちくりと痛んだ。だが今は、するべきことがある。
「ラルケス様。さ、もう寝ましょう。他に話がしたいなら、治ってから聞きますから」
手を引いて、寝台まで連れて行った。大人しく寝てくれるか不安だったが、彼は無言で横になる。
「少し休むだけです。心配しなくても、あなたが部屋を出て行った後に仕事をしたりしません」
「はい」
その後エルーテはラルケスが眠るまで付き添い、夜通し彼の看病を行った。
ラルケスの熱は、一日で下がった。エルーテは彼を看病し、ずっと付き添ったのだ。
そうして三日後、エルーテの部屋――
「ラルケス様。そこで、なにをされているんでしょうか……」
エルーテは寝台の上から、彼を見上げた。ラルケスは寝台の横に椅子を持ってきており、書類を読んでいる。
「遊んでいるように見えますか? 仕事をしているんですよ」
「……執務室ですればいいんじゃ……」
「ここは私の城ですよ。どこで何をしていようと、勝手でしょう。……そもそも、あなたが悪いんですよ。熱を出して寝込むから」
「どこかの誰か様の風邪が、うつったんです」
「さて、誰のことでしょうね。まぁ、あなたが勝手にお節介をやいたから、そうなったんでしょう。自業自得です」
腹が立ったが、エルーテは諦めた。怒れば、余計に熱が上がる気がしたのだ。少し体を起こすと、サイドボードに置かれている水を飲もうとした。だがエルーテが取る前に、ラルケスが杯を手にする。そして、エルーテへと飲ませてくれた。
「あ、ありがとう、ございます……」
「病人ですからね。今回だけ特別です」
エルーテは微笑むと、寝台から身を乗り出した。そして彼へ抱きつく。
「では、甘えさせてもらいます。病人ですしね、私」
「調子にのらないでください」
「先ほど、今回だけ特別って言ったじゃないですか」
迷惑そうにされたが、体を押しのけられたりはしなかった。
「あなたは、いつも楽しそうですね……」
「そうですか?」
「えぇ。あなたの周りは常に笑顔が絶えず、光で溢れています。人付き合いも上手ですし」
「そんなことは、ないですよ。私だって、苦手な人はいます」
エルーテは父を思い出した。病気になっても、一度も見舞いへ来ることはなかったのだ。だが姉たちが病気になったときは、父は寝る間も惜しんで看病をした。
「この城へ来て、私のことを誰かから聞きましたか?」
「いえ、特には……。聞きたいことがあれば、ラルケス様に直接質問をします」
ラルケスは手にしていた書類を、サイドボードへ置いた。
「では、少しだけ話をしましょう。私の母は、隣国のシュバールから嫁いできた人でした。政略結婚だったので、夫婦仲は冷め切っていました。母は私を産みましたが、世話は全て乳母に任せ、一度も私を抱き上げたことはなかったそうです」
エルーテはどきりとした。自分の境遇と、重なるところがあったからだ。
「そんな……」
「言葉も生活習慣も、そして宗教すら異なる国へ嫁いできた母は、ずっと部屋に引きこもっていたそうです。親しい友人もいなかったので、次第に精神を病みました。父は家庭に無関心で、仕事ばかりしていました」
彼がこのように自分の過去を話すのは、初めてのことだった。
「お父様と、お母様は……?」
「母は病気で私が十二歳のときに亡くなり、父は戦死しています」
言葉を失った。彼がそのような生い立ちだったとは、知らなかったからだ。エルーテは悲しくなり、ラルケスを強く抱きしめた。
「私が、ラルケス様のご両親の分まで愛し、大切にします。だから、安心してください」
嫌がられるかと思いきや、彼はエルーテの背中に手を添えた。
「全くあなたは、面倒な方ですね。こんな私の、何がいいのやら」
「ラルケス様、どうか覚悟をしていてください。これからは私が世界で一番、ラルケス様を愛しますから」
ラルケスはエルーテの体を引きはがすと、寝台の上へ寝かせた。
「熱が下がってまだ同じことを言うなら、信用してあげます。だから、まずは風邪を治しなさい」
そう言った後、軽く頭を撫でられた。エルーテは照れつつも、喜ぶ。このとき、彼とほんの少し、距離が縮まった気がした。
エルーテの病気が治ったのは、二日後のことだった。ラルケスが看病をしたのは一日だけだったが、その後も何度か部屋へ、様子を見に来てくれたのだ。
朝食の時間。エルーテがラルケスと一緒に食事をするのは、久方ぶりのことだった。エルーテは菜園で収穫された野菜を使ったスープを飲み、今日も食事がおいしいことに喜ぶ。
「私が病気で休んでいる間、シャルと一緒に仕事を片づけてくれたそうですね」
「え? あ、はい。シャルに手伝ってもらいました」
「では、そのお礼をしなければなりませんね。何か欲しい物、または、して欲しいことはありますか?」
自らが勝手にしたことなのだが、彼は礼をすると言う。
「では、私と結婚を――」
「ただし、あなたとの結婚以外で」
エルーテは先手を打たれて、しょんぼりした。それを見たラルケスは、くすくすと笑う。
(あ……。ラルケス様が笑ってる姿、初めて見た!)
いつもの皮肉めいたつくり笑いではなく、自然と出た笑顔のようだ。
「ラルケス様って、イジワルですよね。お友達、いないでしょう」
「一人、いますよ。親友と呼べる人物が」
「酔狂な方ですね?」
「そうですね。あなたにそっくりですよ」
エルーテは眉を寄せて、それはどういう友人なのだろうと考えた。
「……お礼は、その内にしてもらいます。今は、思いつかないので」
「では、今度は私のお願いをきいてもらいます」
「なんでしょうか? 私にできることなら、しますけど」
「良かった。では、そろそろあなたの胸を触らせてください。それは私のですからね」
エルーテは咽せた。正気だろうか、と。だが彼が冗談を言うはずもなく、エルーテは了承した。
エルーテはラルケスの寝室に呼ばれた。
「え? これは、どういう」
両手を頭の上で枷をつけられた状態で、エルーテは寝台の上で仰向けになっていた。上半身は裸であり、困惑する。
「え? なにがですか? あなたの胸を愛でるのに、必要な処置をしただけですが」
両手の枷はヘッドボードに鎖で繋がれており、あまり自由に動けない。
「拘束する必要は、ないと思います」
「あるからしているんですよ。でないと、逃げるでしょう」
エルーテはどういう意味かと悩み、ハッとした。
「それって、私が嫌がることをするって意味ですか? い、痛いのは……」
「痛いことはしませんよ。舐めるだけです」
聞き返す前に、彼はエルーテへ顔を寄せた。頬へ軽く口づけをされたかと思いきや、ぺろりと舐められる。
「ゃっ、くすぐった……」
くすぐったいと言い切る前に、エルーテは唇も舐められた。
「あなたの嫌がる顔、嫌いではありませんよ」
エルーテはむぅ、と不満そうにした。
「ラルケス様って、変態ですよね!」
たまらず、つい本心を言ってしまった。だが彼はニコニコと、平気な様子だ。
「えぇ、存じています。そんな男を相手に、あなたは妻になりたいと仰っているんですが、ご理解されていますか?」
「いえ、いいえ! ちっとも、全く、していません!」
必死に首を振った。だがラルケスは満足げに、目をゆっくりと細める。
「良かった。きちんと、ご理解をされているようですね」
否定したにもかかわらず、彼は都合のいいように解釈をした。エルーテの無防備な左側の乳房へ手を当てると、形を堪能するように撫で始める。
「に、逃げませんから、手枷をはずしてください……っ」
「それは無理なご相談です。お仕置きも兼ねているので」
「お、お仕置き? それは、なんのお仕置きですか?」
「他の男が渡した匂い袋を持ち歩いていたでしょう。あなたのこの胸は、私の所有物になったのですよ? それなのに、他の男の香りを身に纏うなんて、吐き気がします」
ラルケスはエルーテへ口づけをした。唇を軽く噛まれ、かと思えば唇を深く合わされる。それとともに、舌をこすりつけられるようにして、嬲られた。それがなんとも甘い快感をもたらす。
「ふぅ……っ」
咥内を舌で掻き混ぜられ、味わうように口づけを繰り返す。その間にも、彼の右手は左乳房を愛撫し続けていた。与えられた刺激によって乳首は勃ち上がり、彼の指によって軽く抓まれる。それとともに、下腹部が一気に熱くなった。内股がぞわりとなり、肌も汗ばむ。
「あなたは体温が高くなると、胸元からいい香りがするんです。ご存知でしたか?」
「し、知りませんっ」
再び、蕩けてしまうかのような甘い口づけを受けた。あまりの気持ちよさに、浮遊感さえ味わう。
(なんだか、前よりもキスが甘い……。気のせい……?)
彼はエルーテの唇を食んだ後、笑った。
「おや、まだキスだけだというのに、随分とくったりするんですね」
首筋に顔を埋められ、なぞるように舐められた。ゾクゾクとした感覚が走り、エルーテはぎゅっと目を閉じる。
「や……」
首筋から耳朶を舐められた。耳は弱いので、舐められるのはくすぐったい。やめてほしくて彼の体を押しのけようとしても、両手は繋がれたままだ。
「抵抗したくてもできない、そんな顔をしていますね。今のあなたは、可愛いと思いますよ」
あまり嬉しくない褒め言葉だった。彼は鎖骨へキスをされ、胸元にもキスをされる。しかも、胸元に顔を埋められ、匂いを嗅がれた。エルーテは恥ずかしさのあまり、足をバタバタさせる。
「匂いを、嗅がないでくださいっ、いやっ」
「この胸は私のものになったのですから、どう扱おうと勝手でしょう」
「だ、だってっ、こんなの……」
「だから、言ったでしょう。これはお仕置きだと」
見せつけるかのように匂いを嗅がれた。エルーテは目を潤ませる。
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ、やめてくださいっ」
必死に懇願したが、無駄だった。彼はエルーテの胸を舐め始め、乳首を啄む。彼は胸が本当に気に入っているらしく、揉みながら肌触りを楽しんでいる。
(恥ずかしいのに、胸を吸われたり舐められたら、うずうずする……っ)
彼は体を起こすと、微笑んだ。かなり上機嫌なので、エルーテはぞっとする。彼が何かを企んでいるのが、わかったからだ。
「黙ったままでは失礼なので、先に言いますね。脱がせます」
「え? 何を?」
ラルケスはエルーテの脚衣を脱がせた。その下にはレースがあしらわれた下着(ブライズ)。寝るときや男装をしていないときは、肌着(シュミーズ)と合わせて着用している。だが今は下半身を覆う下着だけだ。
「いい眺めですね」
なぜ脱がせたのだろうと、エルーテは眩暈がしそうだった。ラルケスはエルーテの左足を持ち上げると、膝を舐める。
「ひ……、そこは舐めるものでは……」
「言ったでしょう。舐めるって」
脹脛に口づけをされたかと思いきや、すぐに舐められた。内股まで到達すると、彼は強く吸うように口づけをする。
(なに……? 赤い痕がいっぱい……)
まるで花を散らしたかのように、赤い印がつけられた。左側の内股だけではなく、右側の内股も舐められ、そして赤い痕をつけられる。
「や、んぅ……っ」
「私に口づけの痕を刻まれて悶えるなんて、今とっても恥ずかしい姿をしていますよ」
抵抗できない状態であり、逃げることもできない。エルーテはせめてもの反抗として、足を彼の手から抜く。
「恥ずかしい姿なんて、させないでください……」
ラルケスはエルーテへ覆いかぶさると、顔を近づけた。
「申し訳ありませんが、お断りします。あなたを辱めてお仕置きをするのが、目的なので」
下着へ指をかけられ、そのままずるりと膝まで下げられた。エルーテはさすがに青ざめる。
「な、なにを……っ」
問うより先に、下着は足から脱がされてしまった。
「大丈夫ですよ。脱がせただけです。それに、あなたを抱く気はありませんから」
抱く気はない。その言葉に、複雑な気持ちになった。
(今既成事実をつくれば、ニーナ姉様との結婚をやめさせることができる。でも……)
彼との行為に覚悟がないわけではない。覚悟がないのは、自分のことを話す勇気だ。彼は自らの生い立ちを話してくれたが、エルーテはまだ何も語っていない。
「どうしましたか?」
「い、いえ、抱かないなら、下着を脱がせなくてもいいんじゃ」
「なんの目的もなく、こんなことはしません」
両脚を割られ、大きく開かされた。エルーテは悲鳴を忘れ、絶句する。自分の位置からは見えないが、彼からは脚の間がはっきりと見えているだろう。
(え? どうしてこんなことを?)
エルーテは冷静になろうとした。だが、問いかけるのが恐ろしい。なぜなら、彼の答えが容易に予想できたからだ。
「あ、の……、ラルケス様。これは」
「勿論、舐めるためですよ」
エルーテは腰を浮かせて、ヘッドボードのほうへ逃げた。だが腰を掴まれて、引き戻される。
「ふ、ふざけないでください! いくら私でも、怒りますよ!」
「あぁ、安心してください。最初は指でしてあげますから」
そう告げ、細い脚の間へ手を滑り込ませてきた。エルーテは身を捩ろうとするが、ラルケスがエルーテの左膝裏へ手を差し込み、できなくする。そのまま、割れ目を指で軽く広げた。とろとろになって濡れているそこは、臀部まで濡らしている。
「ラルケス様、そんなところ、触らないでっ」
必死に懇願するが、彼はただただ笑みを深めるだけ。
「あなたのここは、とても柔らかくて、ふっくらしていますね。つるりとしているので、指がよく滑ります」
襞を掻き分けるようにし、中央へ指が到達した。そして秘部を何度も撫で上げるようにし、往復をする。それとともに、味わったことのない強い快感が襲った。下腹部にぐっと力が入り、ヒクヒクと秘部が喜ぶように動くのがわかる。
「あぁっ!」
ただ指を上下に動かしているだけだというのに、エルーテは喘いだ。彼の指が秘部を撫で上げるたびに、気持ちよくてたまらない。
(こんなの、知らない、怖い)
速さは一定で、ひたすら秘部の中央を撫でられた。だがそれだけではなく、彼は秘部にある敏感な突起、花芽を指の腹でそっと転がす。それだけで、エルーテは軽く達してしまった。初めて味わう絶頂に、何が起きたのかわからない。
「何度でも、達して構いませんよ」
彼は秘部を弄ぶことを決してやめず、攻め続けた。くちゅくちゅといやらしい蜜が、自身の秘部へ塗りたくられる。
「やっ! だめっ、触られたら……っ」
濡れた秘部の間を何度も何度も、指で優しく擦られた。ビクンビクンと秘部は震え、強すぎる快楽に咽び泣いているかのよう。
(気持ち良すぎて、頭がおかしくなる……)
そうして幾度も軽く達し、エルーテの秘部はさらにとろとろになった。紅珊瑚のように赤く染まり、ヒクつくのが止まらない。
「中に指を挿れたわけでもないのに、ここまで感じるなんて。あなたは快楽に弱い体質なんですね? 今でこうなら、もっと激しいことをしたら大変なことになりそうですね」
エルーテは答えられなかった。口から漏れるのは、喘ぎ声ばかり。
「は……んぅ、あ……あん……」
彼は上半身を倒すと、エルーテの秘部にある襞や花芽を指で弄りながら、胸の乳首を唇で食んだ。
「こんなにも大きく尖らせて。なんていやらしい姿でしょうね」
胸の突起を押すように舐められ、ぞくりとした。
「ラルケス、さま……、これ以上はもう、気持ちよくしないで、くださ……」
涙声でお願いをした。だが彼はエルーテの唇へ、軽くキスをする。
「おや、気持ちがいいんですか? 困りましたね。これではお仕置きの意味がありません。……あぁ、そうだ。あなたにどんなお仕置きがいいか、選ばせてあげましょう。私に舐めてもらうのと、ちょっと痛いことをされるのと、どちらがお好みですか?」
どうして二択しかないのだろう、と思った。
「……ちょっと痛いことって、なんですか?」
「お尻の穴に、男性のモノを模した淫具を挿れます」
よくわからなかったが、お尻に異物を挿れると言ったのは理解した。
「ほ、他に選択肢はないんですか?」
「ありませんね」
痛いことをされるのは嫌だった。かといって、舐められるのも無理だ。
「手とか、首なら、舐められるのを我慢します……」
「それだと、お仕置きの意味がないでしょう? さて、時間切れです。やはり舐めますね」
ラルケスはエルーテの両脚を広げ、顔を埋めた。
「や、やめっ、やだっ! ラルケス様、お願い、やめ……!」
指先で秘部が大きく開かれるのがわかった。それとともに、熱くぬるついたものが、秘部を味わうように当たる。くちゅりくちゅりという音がし、舐められているのがわかった。襞を一枚一枚確認するように舌が当たり、下腹部の熱が高まっていく。
「あなたのここは、とても舌触りがよくて、熱いですね」
「そんな感想、いらな……、ひゃ! んぅ……あんっ」
初めは優しく触れる程度だったが、次第に強くなった。抉るように刺激をされ、何度も腰が跳ねる。それを楽しむように、今度は花芽をそっと吸われた。
「丸く膨れて、可愛いですね」
「や、あぁ……、そこ、ん、だめ……!」
花芽を吸われ、かと思いきや今度はそこだけを舌先で擽るように舐められ、エルーテの下半身は唐突に限界を迎えた。かつてないほどに秘部が痙攣し、体から力が抜ける。だが彼はそれでもやめず、エルーテの内股へ一度口づけをする。
「ふふ。辛そうですね」
「……っ、も、もうゆるして、くださ……。こんなの、むり……」
呼吸を荒くしながら、エルーテは言った。
「今は気分がいいので許してあげなくもないですが……、そうですね。胸のときのように、あなたが体のどこかを差し出せば、考慮しましょう」
エルーテははっきりしない思考で、必死に悩んだ。
「私の体で欲しいところ、あるんですか?」
怪訝そうに、問いかけた。彼が欲しがるような部分は、正直臀部しか思いつかない。ラルケスはエルーテの脚を撫でており、妖艶に笑う。その仕草はまるで、悪魔のよう。
「ありますよ。唇、足、お尻、そしてあなたの大切なここです。さぁ、どこを私にくれますか?」
最後に指定された部分を差し出すのは、危険な気がした。かといって、お尻と言えば妙な道具を挿れられる可能性がある。ならば残るは、唇か足の二つ。
「唇か足の、どちらかで……」
「では、唇を貰いましょうか。今日からあなたの唇は、私のものです」
「で、では、もう、許してもらえますか?」
彼は屈託のない、爽やかな笑顔を浮かべていた。エルーテは嫌な予感を覚える。
「許してあげなくもない、と言っただけです」
「え! それって、詐欺じゃ……!」
「きちんと、考慮しますと言いましたよ。考慮はしたので、詐欺ではありません」
再び秘部へと顔を埋められ、今度は激しく舐められた。頭の中がどうにかなってしまいそうな快楽に、エルーテは感情のほうが先に限界を迎える。目から涙がこぼれ、泣いてしまったのだ。痛みや悲しみからではない。恥ずかしさと、苦しいほどの凄まじい快楽からだ。
「ふ……ん、ぁあ……ラルケス、さま……や、いやぁ……っ」
ぼろぼろと泣きじゃくりながら、嬌声をあげた。どれだけ泣いたとしても、彼は許してくれない。
「処女の身で性的快楽を覚えるなんて、あなたも大変ですね」
くちゅくちゅと舌で舐められる淫らな行為。両手を封じられているので、まるで籠の中に閉じ込められている小鳥のような気分になった。
そうして何度目かの絶頂を迎えさせられたとき、漸く彼が許してくれた。だが手枷をはずされてもエルーテは動けず、彼の寝台の上でぐったりしたのだ。あまりの疲労に、エルーテはそのまま眠ってしまったほど。だが眠りに落ちる寸前。
「――もっと溺れて、私の腕の中へ堕ちて来なさい」
そう言われた気がした。
エルーテがラルケスの寝台の上で目覚めたとき、彼は部屋にいなかった。
(あ、あんな、あんなことをされるなんて……っ!)
恥ずかしさのあまり、顔が真っ赤になった。急いで寝台を下り、服を着る。そのまま部屋を出ようとして、ふと思い出した。
(そういえば、私のことについて書かれた観察記録があるんだっけ)
どうしても気になった。彼の部屋にある本棚へ移動すると、観察記録と書かれた本を探す。そして部屋の外に誰もいないことを確認してから、観察記録を抜き取った。
(黙って読むのはいけないけれど……)
心の中で謝罪をしてから、急いで中を見た。
「えっと……、イノシシかと思っていましたが、どうやら彼女はリスだったようです……。リス? どうしてリスなんだろう? もしかして、食事のときに私が変なことをしてたのかな?」
首を傾げつつ、エルーテは元の位置へ観察記録を戻した。
やはり彼の中では未だ、エルーテは人間ではないようだった。