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​誘惑

 崖から落ちた。そう思った次の瞬間には、強い衝撃が全身を打ち付けた。

 ――痛い。

 声に出したかったが、できなかった。ヒューヒューという、風のような音がうるさいぐらいに耳に響いており、何も見えない。地面はとても冷たく、手足も動かなかった。

 ――痛い、痛い。

 やがて、ヒューヒューという音は風の音などではなく、自分の呼吸音なのだとわかった。このまま死んでしまうのだろうか。そんな不安と恐怖で心がいっぱいになる。だがそれよりも。

 ――アラステア。

 彼は、どうなったのだろうか。無事なのだろうか。瞼さえろくに開かぬ状態では、彼がどこにいるのか確かめようもない。

「リオノーラ!」

 リオノーラは、よく知っている声を耳にし、泣きそうになった。

 

 

「おい、リオノーラ、起きろ!」

 激しく体を揺さぶられて、リオノーラは瞼を開けた。アラステアはそれにほっとしたのか、息を吐くと、リオノーラの頭をくしゃりと撫で付ける。

「どうしたの……」

「お前が魘されていたから、起こしてやったんだろうが。感謝しろ」

「あ、ありがとう……」

 リオノーラは上半身を起こした。アラステアの寝室であり、アラステアが使用している寝台の上。そこでリオノーラは、二週間前のことを思い出す。

『やっぱり、お前なんか、大嫌いだ』

 口付けをされた後、アラステアにそう言われたのだ。だがすぐに、アラステアは自らが用いている寝室へとリオノーラを連れ戻した。当然、リオノーラとてすぐに了承したわけではない。アラステアと同じ寝台で眠るなどとんでもない、と逃げ出そうとしたのだ。しかしながら――。

『いいから大人しく黙って寝ろ! 俺は仕事で疲れているんだ!』

 物凄く勝手な言い分とともに、リオノーラは寝台へと連れて行かれて眠らされた。当初は何か手出しをされるのではないかと警戒していたが、アラステアはリオノーラがいることなどまるで忘れているかのように、熟睡をした。否、リオノーラがいることなど本当に忘れているのかもしれない。

 女として見られていないことを喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか。

 リオノーラは複雑な気持ちのまま、今現在も彼と一緒の部屋で過ごしているのだ。

「お前、よく魘されているようだが、一体どんな夢を見ているんだ?」

 そんな問いかけをされて、リオノーラは黙り込んだ。視線は無意識のうちに、アラステアの左手を見てしまう。もしも七年前の話をすれば、彼はどんな反応をするだろうか。

 ――私、まだアラステアに七年前のお礼を言っていない。

 森の中でのことは、夢だったのではないのかと疑ったことがある。だがアラステアの左手の傷を見る限り、あの出来事は現実だったのだ。

「あ、あのね、アラステア。七年前のことだけれど……」

 アラステアは左手を後ろへ下げると、リオノーラから距離をとった。まるで、その話を避けるかのように。

「……そうだ。お前、いつも地味で変な服ばっかり着ているだろう」

 起きて早々に衣服の文句をつけられ、リオノーラはむっとした。アラステアは隣の部屋にある衣裳部屋へ行くと、そこから木製の大きな長櫃(コファー)を幾つか運んでくる。その中から取り出したのは、クリーム色の寝衣や宝飾品類。

「アラステア?」

 アラステアは何かの装飾品を手に持ってきた。ネックレスかと思うのだが、彼はリオノーラの額へそれをあてる。

「このサファイアのラリエットか、それともこっちの金のラリエットか」

 ラリエットとは、首や額、更には髪の毛へつける紐状の装飾品のことだ。真珠や宝石などが用いられることもある。

「どうしたの、それ」

「買ったに決まっているだろうが。お前、いつも髪の毛を上げたままで、ろくにアクセサリーとかつけないからな。この真珠のラリエットは、髪に編み込むこともできるそうだぞ。いいだろ、これ」

 アラステアはあぁでもない、こうでもない、とリオノーラに装飾品類を肌にあてては、眉間に皺を寄せていた。

「買ったって……、あれ全部?」

 長櫃が五つは並んでいた。

「いや、まだある。ドレス類はお前が持ってきた衣服の寸法を調べて仕立てさせたから、数日したら届くだろう。……しっかしお前、本当に派手なアクセサリーが似合わない残念な顔立ちだな」

「ちょ、ちょっと待って! どういうつもり? 私にドレスやアクセサリーだなんて」

 アラステアはリオノーラの首へピンクの真珠のネックレスをつけた。

「お前は俺のモノになるんだから、俺好みの女に仕立ててもいいだろ。お、これは似合うな」

「俺好みの女って……」

「お前を見ててもつまらねえからな。色気もねえし、俺を喜ばせるために可愛く着飾ったりもしねえし。あと、毎日寝顔を男の俺に見られているのに恥らったりしないとか、女として失格だろ」

 反論できなかった。リオノーラとしても、思い当たる節があったからである。誤魔化すように自らの胸元を見るのだが、そこにあったピンクの真珠のネックレスに頬が緩む。

「可愛い……。こんなに可愛いネックレスを、アラステアが私に選んでくれたの? ありがとう。すごく嬉しい」

 心から素直にお礼を告げたのだが、アラステアはなぜか真顔でリオノーラの両肩に手を置いた。

「お前、やっぱり城から外へ出るな」

「……それは、私が人前に出ないほうがいいぐらい、醜い容姿をしている、ってこと?」

「醜いとは思わないが、外へ出ないほうが世のためだろうな。お前が犯罪事件に巻き込まれるなんて想像したくないし」

 どういう意味だろう、とリオノーラは気分を損ねた。

「犯罪事件って」

「ま、安心しろ。そのままの姿でいたら、誰もお前のことなんて気にも留めない。色気もねえしな!」

 大笑いするアラステア。これに、リオノーラは益々憤慨した。

「……っ」

「お。どうした。頬が膨れて顔が真っ赤になっているぞ」

 面白がってリオノーラの頬を突くアラステア。これにリオノーラはアラステアの手を叩いた。

「わ、私だって、その気になれば色気の一つや二つぐらい、あるもの!」

「はぁ? 何言ってるんだよ、お前。水を張った桶で自分の顔をよく見てから言えよ」

「私だって、あなたのことぐらい、簡単に誘惑できるんだから! なによ、色気がない、色気がないって!」

 アラステアはないものはない、と小馬鹿にした笑みを浮かべたところで、ふと思いついたように考え込み始めた。

「……いいな、それ」

「え?」

「だったら、俺を誘惑してみろよ。俺をその気にさせたら、お前に色気がないって言ったことを謝ってやってもいい」

 ニヤニヤと、不敵な笑みで挑発するアラステア。リオノーラは売り言葉に買い言葉で、その挑発に乗ってしまう。

「いいわ、証明してあげる。私にだって色気があるってこと。謝るって言ったこと、忘れないでね」

 アラステアは頷いた。

「あぁ、楽しみにしているぜ。お前が俺に返り討ちにあって、泣きべそかいて悔しがる姿をな!」

「アラステア!」

 彼は面白そうにしつつ、先に部屋を出て行ってしまった。

「絶対に、謝らせるんだからっ」

 そうと決めたものの、どうすればいいのか悩んだ。まず具体的に何をすればいいのかがわからない。

「失礼いたします、リオノーラ様」

 アラステアと入れ替わりで、シルヴェストルが入ってきた。

「おはよう、シルヴェストル」

「はい、おはようございます、リオノーラ様。今朝はアラステア様がとてもご機嫌でしたが、何かいいことでもあったのですか?」

 廊下を笑いながら歩いていくアラステアの姿が、容易に想像できた。

「実は……」

 何があったのか、シルヴェストルへと簡単に説明をした。シルヴェストルは話を聞きながら窓のカーテンを開き、長櫃を衣裳部屋へと手早く片付ける。

「まぁ、そんなことが……。リオノーラ様とアラステア様は本当にとても仲が良いのですね」

「仲なんて、良くない。アラステアは、私をからかって楽しんでいるだけだわ」

「ふふ。そうですか」

「……アラステアを、見返したいの。あの鼻を明かしてやりたい。私にだって、女性らしいところがあるって……。でも、具体的に何をしていいのやら」

 シルヴェストルがアーチ型の窓を開ければ、とても心地の良い風が室内へと入ってきた。アラステアの部屋は三階にあるのだが、いつも清々しい風が流れ込んでくるのだ。そして窓が開かれれば、コンソールテーブルの上にあるラナンキュラスとプリムローズの切り花の芳香が自然と広がる。リオノーラはそれが気に入っていた。

「いつもご一緒に寝ておられるようですし、不意打ちで何か驚くことをしてみてはどうでしょうか」

「不意打ちで?」

「えぇ。男性なんて単純なものですから、少しばかり大胆な服装で迫れば、すぐに陥落しますよ」

「そう、かしら……」

「リオノーラ様はとても愛らしくて、お綺麗です。もっと自信をお持ちください」

 シルヴェストルに手を引かれて、リオノーラは寝台から立ち上がった。彼女の琥珀の髪が陽に照らされ、光っているように見える。

「綺麗だというなら、シルヴェストルのほうが綺麗だわ」

 心からそう述べれば、シルヴェストルはとても嬉しそうに顔を綻ばせた。

「勿体ないお言葉を、どうもありがとうございます。リオノーラ様」

 彼女はとても美しいと、リオノーラは心から思うのだ。それはきっと、彼女の内面が外見を輝かせているのだと感じた。

 

 

 夜となり、リオノーラはアラステアの寝台の上で毛布をかぶって待機していた。アラステアとは、敢えて夕食の時間を別々にしたのだ。

 リオノーラがじっとしていると、夕食を終えたアラステアが寝室へと入ってきた。

「俺の帰りを出迎えもせずに、先に食事も終えて眠るとは……。溜息がでるぜ」

 アラステアは寝台へと腰かけた。リオノーラは頭まで毛布をかぶっているため、彼がどんな顔をしているのかは見えない。しかしながら、アラステアが毛布を捲り上げようとする気配は感じ取った。

「……っ」

 リオノーラは毛布の中から飛び出すと、アラステアの体を寝台の上へと押し倒した。そのまま彼の腹部の上へ跨る。

「な……、お前……」

 アラステアは驚いた顔でリオノーラの顔を凝視していた。リオノーラの姿は薄いピンク色のドレス姿であり、アラステアが今朝つけてくれたピンクの真珠のネックレスもつけている。

「アラステア……、その」

 一呼吸おいて、アラステアが思い切り息を吹き出した。その後に訪れたのは、彼の爆笑。

「お前、本当に期待を裏切らない奴だな! 寝込みを襲うぐらいはしてくれるのかと思ったら、案の定だし。いや、面白いな、お前! 最高すぎる!」

「な……っ」

「しかもなんでドレス姿なんだよ。男を襲うなら、もうちょっと俺が喜びそうな服を着ろよ。本当に男心がわかってねえな!」

「なんですってっ!」

 アラステアはまだ笑っていた。

「くくっ、まぁ、今回はこれで許してやる」

 リオノーラは臀部をアラステアに両手で鷲掴みにされた。

「きゃあっ!」

 スカートの裾に両手を差し込んで触っている彼。

「嫌がることはねえだろ。自分から俺の腹の上へ乗っておいて。俺だって重いのを我慢してやってるんだから、これぐらいの役得はあってもいいだろ」

 リオノーラはアラステアの体の上から転がるように離れた。そのまま寝台から逃げるように下りると、更にアラステアから距離をとる。

「バカ、変態!」

 アラステアは起き上がると、笑いを堪えきれない様子で、リオノーラを観察していた。リオノーラとしては、非常に不愉快になる視線である。

「これでわかっただろ。お前はどうあっても俺には勝てないって。これに懲りたらもう、俺に刃向うな。さ、寝ろ。俺も寝るし」

 リオノーラは余計にむきになってしまった。

「ま、負けていないもの!」

「お。まだ続けるのか。じゃあ、英気を養うためにも、大人しく寝ろ。明日はどんなことをしてくれるのか、楽しみにしているぜ。じゃあな、おやすみ」

 毛布をかぶって寝てしまうアラステア。リオノーラはやはり納得がいかず、必ず彼に一泡吹かせると決めた。

 

 

 翌日。リオノーラは薬草が植えられているハーブガーデンへと訪れていた。リオノーラの実家であるアロア城にもハーブガーデンはあったが、ドゥヌカ城にあるハーブガーデンはそれ以上の広さ。

「リオノーラ様。これだけのハーブ、一体どうなさるのですか?」

 木箱の中にフェンネル、オオバコ、カモミール、グランドアイビー、その他にも様々なハーブが入れられていた。シルヴェストルは、リオノーラが一人でハーブを集める姿を傍で見守る。

「薬用入浴というものがあって、それに使おうと……」

「入浴用のハーブ集めなら、使用人である私がいたします。リオノーラ様の手やドレスが汚れてしまいますよ」

「私が、集めたいの。アラステアのあの傲慢な顔に一矢報いるために」

 入浴中ならば、彼も手出しはできないだろう。リオノーラは黙々とハーブを集める。

「本当に仲良しですねぇ」

「仲良しなんかじゃ……」

 シルヴェストルへと振り返れば、彼女の周りに風が集まっていた。まるで遊んでいるかのように、爽やかな風が吹いている。それは、とても不思議な光景。

「リオノーラ様、どうかしましたか?」

「う、ううん」

 なぜかはわからないが、シルヴェストルを見ていると温かい気持ちになった。

 

 

 薬用入浴は、ハーブを入れて温浴を行う入浴方法。リオノーラは摘み取ったハーブを琺瑯の浴槽へ入れて、その後は湯を張る作業をシルヴェストルと一緒に行った。

 リオノーラはアラステアが帰ってくるのを出迎えた後、彼が入浴するタイミングを見計らった。

 そうして彼が入浴したという話をシルヴェストルから聞くと、リオノーラも脱衣所へと入ったのだ。衝立の奥からは湯の音が聞こえ、様々なハーブの香りが広がっている。

「アラステア! 私が用意した湯の加減はどうかしら!」

 扉を開けて中へ入れば、目の前に湯煙が広がった。床と壁は青と白の二色が混じり合った大理石であり、壁には太陽の形や星を模したオブジェが飾られている。バスタブ用ラックと白い布の衝立を押しのければ、その先には琺瑯の浴槽があった。淡い黄緑の湯に浸かっているのは、アラステア。

「なっ、お前、そこで何をして……っ! 今すぐ出ていけ!」

 アラステアがとても焦っていた。リオノーラは自らが優位に立ったことを確信し、体を洗うための黄色い海綿を手に近づく。

「アラステア。背中を洗ってあげる」

「やめろ! 寄るな、近づくな、それ以上来るな!」

 拒まれば拒まれるほど、リオノーラは逆らいたくなった。

「私に色気がないって言ったことを謝ってくれたなら、許してあげる」

「だ、誰が謝るか! そもそもお前に色気がないのは事実だろうが!」

 アラステアは左の胸に右手を当てて、なぜか不自然に隠していた。そこがアラステアの弱点なのだろうか、と推察をする。

「だったら、仕方がないわね。謝りたくなるようにしてあげる。安心して。海綿で肌が赤くなるまでちょっと擦るだけだから」

「それのどこに安心しろっていうんだ」

 アラステアが非常に慌てていた。リオノーラは、今ならば彼を反省させることができるかもしれない、と考える。だが、急くあまり濡れた床に足を滑らせた。リオノーラは浴槽の縁へと顔をぶつけそうになる。

「っぁ!」

「危ないっ!」

 アラステアが咄嗟に両腕で抱き留めた。リオノーラは、打ち所が悪ければ死ぬところだった、とぞっとする。

「アラステア。ありが……」

 きちんと立ってから顔を上げるのだが、彼の胸元に目が留まった。程よく筋肉のついた、逞しい胸板。普通ならば男性の肌を見つめるなどできないはずだが、リオノーラはあるものから目を逸らすことができなかった。なぜなら、彼の胸板に何とも禍々しい気配を放つ剣の絵があったからだ。

「なに、これ……。痣?」

 丁度心臓の上あたりに、その痣はあった。黒い炎を纏っているかのような、そんな剣の痣が。リオノーラはアラステアへ問いかけようとするのだが、彼はリオノーラから顔を背けると、髪の毛をかき上げて深い溜息をつく。

「せっかく人が我慢をしていたっていうのに、よりによって一番見られたくないものを見てしまうし。なんなんだよ、お前。そんなに俺を怒らせたいのか」

 アラステアの声が低かった。リオノーラは流石にやりすぎてしまったかと怯えてしまう。

「アラステア……、その、私」

「まぁ丁度いいか。俺ももう、そろそろ限界だったし。なぁ? リオノーラ」

 とてつもなく邪悪な笑みを浮かべているアラステア。リオノーラは、何が限界なのだろうかと考えつつ、ここにいるのは危険だと判断をする。

「そろそろ失礼するわ。ゆっくり入浴を楽しんで?」

 笑顔を浮かべた。

「あぁ、せっかく来たんだからお前も楽しんでいけよ。慌てて出ていくことはないだろう?」

 アラステアも笑顔を返した。ただし、目は笑っていない。

「わ、私はここに用事はもうないし、またの機会に遠慮するわ。夕食の時間に会いましょう?」

「そうか。暇なのか。だったら、尚更俺に付き合え」

 アラステアは浴槽から出て、リオノーラの体を抱き寄せた。そのまま噛みつくかの如く、リオノーラの唇へと口付けをする。

「んぅっ!」

 リオノーラは身を捩った。だがアラステアによって背筋をなぞられてしまい、動きが鈍ってしまう。

「こら、暴れるな。脱がせられないだろうが」

 背中で縛っていた紐が解かれていくのがわかった。リオノーラは、服を脱がされるなどとんでもない、と動揺してしまう。

「や、やだ、何をしているのっ!」

「色気のない声も出すな。しらけるだろ」

 再びアラステアの唇がリオノーラの唇を塞いだ。咥内へ入り込んできた分厚い舌は、リオノーラの粘膜を刺激する。

「ん……っ」

 紐が解け、露わになったリオノーラの滑らかな背中。そこへ、アラステアの無骨な手が滑り込んだ。無防備な背中がアラステアの濡れた手で弄(まさぐ)られ、恥ずかしさで顔が真っ赤になる。

「随分といい反応ができるじゃねえか。その調子だ」

 更に深く口付けをされた。

 ――どうしてこんなことを。私のこと嫌いって、言っていたのに。

 アラステアの体を押しのけようと、彼の胸元へ手を当てた。だが温かな彼の肌と水滴が指に触れた瞬間に、とてつもなく恥ずかしくなってしまう。それまでは、彼をなんとか謝らせたい一心だったというのに、急激に冷静になったのだ。同時に、自らの行いがいかに恥ずべきものだったのかを知る。どうして入浴中の彼ならば、浴槽から出られるわけがないと思い込んでしまったのか。彼は無抵抗を良しとするような、草食動物ではないというのに。

「んく……っ」

 アラステアがリオノーラの服を脱がせて、下着姿にした。麻で織られたシュミーズは薄く、くっきりと胸の形がわかる。

「……ハッ。なんだよ、勃ってるじゃねえか」

 なんのことかと疑問を口にするよりも先に、両胸の突起を指で抓まれた。そのまま指の腹でクニクニと弄ばれる。

「あ……っ!」

 アラステアがリオノーラの首筋へと顔を埋めた。首筋にアラステアの息が微かにかかり、リオノーラの体温が上がる。

「そんな媚びた声で啼(な)くなよ。誘惑してる、って勘違いされるぞ」

 鎖骨から耳にかけて、舌で舐めあげられた。ぞくぞくとしたものが込み上げてきて、リオノーラの瞳が潤んだ。アラステアの肌からはハーブの香りがしており、鼻腔を擽る。

「っあ、やだ……」

 耳を食まれた。そのまま外側の軟骨を甘噛みされ、リオノーラはぎゅっと目を閉ざしてしまう。その間にもアラステアはリオノーラの耳を丁寧に舐り、耳朶へと吸い付く。

 ――アラステアの舌が私の耳を擽る音がする。

 耳の孔へと、舌が入り込んできた。リオノーラは、舌が入り込んできたことに驚いてしまい、首を横に倒そうとする。だがアラステアが頬へ手を添えて、顔を固定した。

「なんだよ、自分から誘ってきたくせに、逃げるんじゃねえよ」

 耳元で、熱っぽいアラステアの声がした。

「ちが、私、そんなつもりじゃ……」

「なら、どういう意味なんだよ。風呂に入っている俺の元へ堂々とやってきて。今更、裸だったとは思いませんでした、なんていう言い逃れができるとでも思っているのか? ん?」

 裸、と聞いて、リオノーラは冷や汗をかいた。そうなのだ。視線を少し下げれば、彼の腰から先が見えることになるのだ。

「も、もう許して……っ」

「なら、謝れよ」

 アラステアの手が、リオノーラのシュミーズを脱がせた。胸が露わになり、リオノーラは思わずか細い悲鳴をあげてしまう。これまで男性に見せたことがなかった白い胸が、アラステアの眼前に晒されているのだ。

「……っ、なんで、私が」

「なら、仕方ねえな。だったら俺が素直に謝りたくなるように手伝ってやるよ」

 アラステアがリオノーラの胸まで顔を下げると、片方の胸を手で丁寧に持ち上げた。そして、勃ちあがっている形の良い突起を、口に含む。

「ふぅ……っ、や、舐めないで……っ」

 ねっとりと、アラステアの咥内で胸の突起が甚振られていた。舌で突起をなぞられたかと思えば、味わうかのようにしゃぶられる。なんとか逃れたくて体を反らそうとするが、お仕置きだとばかりに甘噛みされた。口に含まれていない方の胸は大胆に手で揉みしだかれており、アラステアの指に合わせて胸が形を変える。

 ――両足が震えてる。力がうまく、入らない。

 ぞくりとするものが、下腹部から駆け上がってきた。

「そろそろ、謝りたくなってきたんじゃねえのか? ごめんなさいは?」

「い、言わない……っ」

「強情だな。……ん?」

 アラステアがリオノーラの内股へ手を滑らせた。

「どうか、した?」

「濡れているな」

「アラステアの水滴が、ついてしまったのね」

 その発言で、アラステアが非常に残念なものを見るような顔となった。リオノーラはどうして彼がそのような顔をしたのかわからず、心外そうにする。

「そうかそうか。ならそこに座れ。拭いてやるから」

 下半身を覆っていた麻の下着の紐を解かれ、ずりおろされた。

「きゃあっ、何するのっ!」

「ほら、いいから座れって」

 浴槽の縁へと座らされ、そのまま両足を力ずくで開かされた。リオノーラは縁を両手でしっかりとつかみ、背後へ倒れないようにする。アラステアはというと、リオノーラの両足の間へと屈みこんで、足の間を見つめている。

「やだっ、そんなところ、見ないで!」

 嫌がらせにもほどがある、とリオノーラは憤慨した。誰かに見せるような場所ではないし、特に男性には見せてはいけないと母から強く教わっていたからである。

「だったら、ごめんなさいは?」

 アラステアがリオノーラを真下から見上げた。リオノーラは顔を赤くしながら、悔しそうにする。

「ご、ごめんな……」

「聞こえねえな」

 謝り終える前に、アラステアがリオノーラの両足の付け根を指で開いた。それとともに、リオノーラの体の中心より透明の液が糸を引いて落ちる。リオノーラは何が起きたのかわからず、精神的ショックを受けてしまう。

「な、なに、今の……」

 自らの体のことだというのに、知らない何かが体の奥から出てきたのだ。

「お前、本当に知らないんだな。これは、男を誘っている証だ。今は俺を誘っている、ってことになるが」

 零れ落ちようとしていた液をアラステアが指で掬い取った。その指を持ち上げて、リオノーラへと見せつける。

「さ、誘ってなんか……っ」

 とてもいけないことをしてしまったように感じて、リオノーラは声を震わせながら否定した。

「ふうん。なら、本当にそうか試してやるよ。今より濡れなければ、誘っていないって認めてやる」

「何をするつも……」

 アラステアがリオノーラの花弁を指で開き、そのまま襞をそっとなぞった。それだけでリオノーラはびくびくと腰を揺らしてしまう。

 ――な、なに、これ。足の間がじんじんする……。

 襞をなぞられて、そしてゆるく引っ張られた。リオノーラは足を閉じようとするが、アラステアがいるために閉じることができない。

「たったこれだけで反応するなんて、やっぱり誘っていたんだな。もっと声を出していいんだぞ」

 リオノーラの顔を見上げながら、彼の手はリオノーラの隠匿すべき場所へ触れていた。

「こ、声なんか、出したくな……っあ、やあぁっ」

 アラステアの指が、リオノーラの花弁の中央を撫でた。リオノーラは体勢を崩し、彼の両肩へ手をついてしまう。

「やればできるじゃねえか。お前、本当に俺を誘うのが上手だな。ご褒美をやらないとな」

 アラステアがリオノーラの足の中央へと顔を寄せて、舌を這わせた。リオノーラは流石にこれには焦ってしまう。

「や、だめぇっ、! そこ、舐めないで! だめっ!」

「うるさい、黙ってろ。今気持ちよくしてやるから」

 ぬるついた柔らかな舌が、リオノーラの柔らかな襞を一枚ずつ丁寧に舐め上げていた。指とは違う感覚であり、リオノーラは吐息を漏らす。

「やめ……、だめって、言ってるのに……っ」

 アラステアが襞を唇に銜えて、そっと啄んだ。リオノーラは羞恥とよくわからない感覚に戸惑い、涙が零れてしまう。だが、彼はやめない。それどころか、舌の動きが大胆になる。排泄を行う小さな孔に舌を尖らせて、そこばかりを攻めるのだ。

「駄目だって言うわりに、随分と気持ちよさそうな顔をしてるぜ」

 そんなことはないと、首を振った。アラステアはくすくすと喉を鳴らしながら笑い、リオノーラの大事な部分へ口付けをする。

 ――頭がおかしくなる……っ。こんなこと、やめて欲しいのに。

 体に力を入れることができず、アラステアの為すがままだった。だが今ならばまだ逃げられる。リオノーラは身を捩ろうとするのだが、突如これまでにない強い感覚が押し寄せてきたために、悲鳴を上げた。

「きゃ……っ!」

 唐突に恐ろしくなった。アラステアの舌が何かに触れたのだ。

「そんなに気持ち良かったのか? さっきよりもいやらしい滴がいっぱい出てきたぞ」

「う、嘘よ! 出てないっ!」

 自分でもわかった。体の奥から何かが出てくるのが。だが、認めたくなかったのだ。

「そうか。だったら、お前が認めるまでもっと溢れさせてやる」

 花弁の中にある小さな芽を、アラステアが舌で舐め始めた。リオノーラは先ほどの強い感覚に襲われ、呼吸が荒くなってしまう。

「や、……んぅ……っ」

 薄い包皮を舌で捲りあげ、そこばかりを舐められた。せめてもの抵抗に彼の肩を軽く叩くのだが、大人しくしていろと言わんばかりに、小さな芽を舌で突かれた。これによってリオノーラは更にアラステアの肩へもたれかかってしまう。

「どうした、リオノーラ。呼吸が随分と苦しそうだが」

 ぞろりと舐めあげられる度に、びくびくと足の中央に神経が集中した。花芯が大きく膨らみ、肥大した分アラステアの舌の動きがよくわかってしまう。

 ――何も考えられない。こんなこと、嫌なはずなのに。

 アラステアによって蕩けそうなほどの痺れをもたらされ、リオノーラは喘いだ。アラステアもリオノーラの花芯をそっと吸い上げては、再び焦らすように舐めあげる。そうして、下腹部にたまった熱が、次第に押し寄せてきた。アラステアにもそれがわかったのか、より一層リオノーラの大切な場所を刺激する。

「っあぁっ!」

 何かが、体の中で弾けてしまったようだった。リオノーラはぐったりとアラステアの体へともたれかかる。

「よっぽどお気に入りだったみたいだな」

「そんなこと、ない……」

「強情だな。じゃあ、次は俺を気持ちよくしてもらおうか。いい加減、きついからな」

 何が、と顔を上げようとしたところで、彼の足の間にある物を見てしまった。太く固く屹立したソレは、脈打つように存在を主張している。

「アラステア……」

 アラステアは立ち上がった。すると、先ほどよりもはっきりとソレが見えた。リオノーラは初めて男性の局部を見たために、少なからずショックを受けてしまう。

「ほらお前も立て」

 浴槽の縁から立たされ、壁へと押し付けられた。そのままアラステアによって左足を抱えられる。

「な、何するのっ」

 怯えた顔で抗議をすれば、アラステアがにこりと笑った。

「ここじゃまともにできないから、これで我慢しておいてやる、って言ってるんだ」

 アラステアが自らの雄芯を、リオノーラの股の間へ差し込んだ。リオノーラはそれを見てぞっとしてしまう。

「や、やだやだやだ!」

「こうなったのは全部お前のせいだろうが! 自分が行ったことの責任ぐらいはとれ!」

「わ、私のせいでこうなったの?」

「そうだ。わかったら、じっとしていろ」

 アラステアに左足を抱えられた状態では、秘部がはっきりと曝け出された。それだけでも恥ずかしくてたまらないというのに、アラステアは自らの太い雄芯を擦り付けるのだ。

「うぅ……んっ」

 足の中央で、彼のモノがスライドしていた。ぐちゅぐちゅとリオノーラの秘部を押しつぶすかのように、幾度も摩擦を繰り返す。

「お前、こんなことをされても感じるのかよ。仕方がない奴だな……」

 呆れとも喜悦ともわからぬ、彼の声。それが、リオノーラの羞恥心を余計に煽る。

「か、感じて、なんか……、やああぁっ」

 先程彼に舐められた部分がまだ痙攣しており、とても敏感になっていた。彼のモノで擦られるだけで、びくんびくんと体が反応をしてしまうのだ。リオノーラの蜜口より流れ落ちた淫らな液は、アラステアの猛ったものと混じり合って白くなる。

 ――アラステアのが、お尻にまで……っ。

 臀部に雁首が当たるのがわかった。更には花芯が上下に揺らされるのがわかり、リオノーラはアラステアの腕にしがみついてしまう。

「ったく、普段は色気がないっていうのに、よりによってこんな時だけ……っ。反則だろうが」

 アラステアがぶつぶつと言っていたが、リオノーラはそれを聞くどころではなかった。再び押し上げられる感覚に、ただただ喘いでしまう。

「いや……っ、やぁっ」

 彼の雄芯で女性としての大切な部分を擦られたままの状態で、リオノーラは達してしまった。だがアラステアはまだ続けており、先ほどよりも動きが激しくなる。それにより、リオノーラは余計に強い感覚に襲われ、首を振った。

「ほら、ごめんなさいは? 言ってみろよ」

「ご、ごめんなさ……、ごめんなさい、もう、許して……っ」

 そうしてどれほど、彼がリオノーラの大切な部分を蹂躙したのか。時間の感覚が麻痺した頃、漸くアラステアが滾ったものを放出した。動きが止まったことに、リオノーラは泣きながらほっとする。

「泣くなよ。やりすぎたって、俺も反省をしているから」

 頬をつたう涙を、アラステアの唇が優しく啄んだ。

「どうして、こんなことを、するの。私のこと、嫌いだから?」

 しゃくりあげながらアラステアを見上げれば、彼は不敵な笑みを浮かべていた。

「あぁ、嫌いだ。お前なんか、大嫌いだ」

 そう言って、リオノーラの額や頬、そして唇へと柔らかな口付けを落とすアラステア。

 嫌いならば、どうしてこんなにも慈しむかのようなキスをするのか。

 リオノーラは、彼のことがよくわからなくなっていた。

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