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プロローグ
エルーテが生まれ故郷を離れて遠方の領地へ訪れたのは、彼に会うという目的があったからだ。
ラルケス・ウィストリアム。
悪魔公、と噂されている人物だ。
公爵である彼が悪魔などという不穏な異称で呼ばれているのには、理由がある。それは今から四年前のこと。北にある大国が、エルーテの暮らすフレリンド国へと侵攻してきたのだ。北の大国とフレリンド国とではあまりに戦力差が大きく、自国の敗戦は必至だろうと思われていた。
しかしながら――、予想に反して敗走しなければならない事態に陥ったのは、北の大国のほうだった。これには、たった一人の男が関わっていたからだ、と囁かれている。それが、ラルケス・ウィストリアム。彼が立案した作戦によって敵戦力は悉く削がれ、数多の敵兵の屍の山を築いた。敵側からすれば、正に悪夢だっただろう。決して負けるはずのない戦に、大敗を喫してしまったのだから。
これが、ラルケス・ウィストリアムという人物が、悪魔公という異名で呼ばれるようになった経緯である。
彼はこの一件により、国内外にその名を轟かす結果になったのだ。
『ラルケスを決して敵に回してはならない』
今ではそう言われるほどに、良くも悪くも名が知られた人物。
――そう。
本来ならば、彼との接点などあろうはずもなかったのだ。
あの日、彼がエルーテの屋敷へ訪れるまでは。
「ひねくれ公爵様。是が非でも必ず、私と結婚をしていただきます。どうぞ、覚悟をしていて下さい!」
エルーテは堂々と、彼に宣言した。
アンカー 1
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